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本『「正義」は決められるのか?』で論理的思考のトレーニング

「正義」は決められるのか?

「正義」は決められるのか?

 

これは、正解の無い問いに結論を出すときの、論理的思考のトレーニングになる本です。

ロッコ問題という有名な思考実験があります。

遠くから制御不能の列車がレールの上を暴走してくる。レールの先を見ると5人の作業員がいる。このまま進めば5人が轢かれて死んでしまう。

あなたの目の前にあるスイッチを押せばレールを切り替えて5人を救うことができるが、切り替わった先のレールにも1人の作業員がいるのが見えるので、代わりにその人が死んでしまう。

このスイッチを押すことは正しい行いなのか?

本書は、このスイッチを押した一人の女性が裁判にかけられているというストーリー仕立てで、無罪派と有罪派が様々な持論を展開する。

はじめにこの話をきいた人の多くは、5と1という数字の大小を比較して無罪と考えるけれど、それに対する有罪派の反論はこうだ。

暴走する列車とその先の5人。切り替えスイッチは無い。列車を止める唯一の方法は、隣にいる太った男をレールへ突き飛ばすこと、というシチュエーションだったとする。

数が絶対なのであれば、男を突き飛ばすことも無罪なのか。それは功利主義であり、突き詰めれば5人の命が助かるからと今この場であなたが殺され臓器を持っていかれることも肯定することになる。そんな社会は安心して暮らせない。だから、男を突き飛ばすのもスイッチを切り替えるのも有罪にしなくてはならない、と。

有罪派の反論には1:5という助かる命の数の理屈だけでは説明がつかない。また、多くの人はスイッチを切り替えるのは無罪で、男を突き飛ばすのは有罪だと直感的に思う。

そこで無罪派は、命の数の差だけではないことと、スイッチの切り替えと男を突き飛ばすことの違いを説明するための理論を展開し、応酬が続く。これが本書のストーリーだ。

2つの問いに正解は無く本書はその結論を出すものではない。僕達読者がこういった答えの無い問題に対して、一貫性のある理屈をもとに自分の答えを出せるのかということを問いている。

そして、物語の登場人物達はその手助けをしてくれる。彼らはそれぞれ異なる、しかしそれぞれ一貫性のある理論を展開する。同じ無罪派でも全く違う理論でアプローチすることもあれば、同じ理論でも無罪と有罪に別れるシーンもある。

大切なのは、一番共感する理論を探すことではなく、全ての理論がなぜ成り立つのかを理解することだ。

余談。

ロッコ問題はAIや自動運転で必ず話題になる問題です。

あなたの車がこのまま進めば目の前の穴に落ちて死んでしまう。左に避ければあなたは助かるけれど歩道を歩く人を殺してしまう。止まることはできない。自動運転のプログラムは、運転手と歩行者どちらの命を優先すべきなのか?

・運転手を優先しない自動運転カーは怖くて乗れないしメーカーも売れない。・しかしそれで歩行者を轢いた場合、誰の責任なのか。運転手?メーカー?プログラマー

と、これはこれで話が尽きないので、良かったら「トロッコ問題 自動運転」でググってみてください。